修士論文3〜5章・日本語暫定版

1 問題の特定

 高等学校の英語教員になり13年目。教師になってはじめの数年は、授業のやり方がわからず、研修会に参加したり、文献や雑誌を調べたりしながら、とにかく役に立ちそうなやり方を無我夢中で試していた。
 初任校での4年間を終え、2校目での7年間の間に、少しずつ、自分なりの考えで授業を組み立てることができるようになった。また、授業だけでなく、年間計画や家庭学習など、授業をより効果的なものにするための要素についても、考えるようになった。
 10年目あたりから、授業の流れが固定化し始めたように思う。生徒たちは、意欲的に授業に取り組んでいるように見えたが、自分の中では、マンネリ感と、本当にこんな授業でよいのか、という疑問を感じていた。
 そこで、英語授業の基本である英語Ⅱの授業を、アクションリサーチの手法を用いて、生徒の学習意欲、動機付け、自律的学習習慣の確立という観点から、授業改善を試みることにした。

2 事前調査

 生徒が英語学習上、どのような問題を抱えているのかを知るために、2006年3月に、2種類の予備調査を実施した。

2−1 Preliminary Investigation A: Benesse Study Support (BSS)

 XXX高校1学年の生徒280名を対象に、ベネッセコーポレーションが提供しているスタディーサポートを利用して、学習時間、方法、問題など、英語学習全般に関する実態調査を行なった。

2−2 Preliminary Investigation B: Student Impression of Teacher Style (SITS)

 1学年で英語Ⅰを受講していた2クラス80名を対象に、英語Ⅰの授業で実施した活動ごとに、『必要性』『難しさ』『面白さ』の3つの観点から、調査を行なった。同時に、授業の印象、要望についての意見を、自由に記述してもらった。

3 仮説の設定

 2種類の予備調査から、英語学習上の主要な問題点を20個、抽出した。この20の問題点を解消、軽減することで、英語への学習意欲・関心、自立的な学習態度が高まるという仮説を立てた。

4 計画の実行

 2006年3月に実施した、2種類の予備的調査から抽出された20個の問題を解消、軽減するために、量的、質的、双方の観点から研究を行なった。

4−1 量的調査

(1) Pre-treament: Study Problems 20 - Pre (Pre-SP20)
 2006年4月に、英語Ⅱの授業を受ける3クラス・118人の生徒を対象に、2006年3月に行った質問紙調査の結果に基づいて抽出された20項目について、5段階評定で回答を求めた。
(2) Midway check: Revised SITS
 2006年5月末に、予備的調査として実施したSITSと同様の手法で、4・5月に授業内で行なった各活動について、中間調査を行なった。
(3) Post treatment: Study Problems 20 - Post (Post-SP20)
 3ヶ月間の取り組みに対する生徒の変化を知るために、事前調査と同じ条件で事後調査を行なった。

4−2 質的調査

(1) Video taped sessions
 対象となった3クラスのうちの1クラス(2の6)を、定期的に録画することで、生徒に録画されていることを意識させないように、週1回程度、録画した。録画した授業を、授業日誌として、分析および振り返りを行なった。
(2) Reflective journal sessions
 上記で述べた録画も含めて、1クラスを対象として、授業日誌をつけて、授業を分析および振り返りを行なった。
Teaching Journal  http://d.hatena.ne.jp/JCD00620/
(3) Class observation by a colleague
 2006年6月に、同僚の先生に授業を見ていただき、コメントをしていただいた。

5 結果

5−1 量的調査の結果

(1) Results of BSS
 質問項目1〜3、8から、ある程度の英語家庭学習の習慣が身についていることがわかる。特に、質問項目3が示すとおり、80%以上の生徒が、授業の予習と宿題をこなしている、と答えている。また、質問項目8で見られるとおり、半数以上の生徒が本文の日本語訳をして、授業に臨んでいる。
 一方で、質問項目3、10、13が示すとおり、授業で学んだことの復習までこなすことができている生徒は、10%程度となっている。また、質問項目6で見られるように、英語の授業に対して不安を感じている生徒が30%以上いる。さらに質問項目7が示すとおり、学習方法・計画性・学習結果について問題を感じている生徒は、それぞれ20%前後いることがうかがえる。
 このような問題点を、SP20の質問項目として、反映させた。
(2) Results of SIT
 必要性、難易度、面白さとも、最も低かった、『教師によるモデルリーディング』、および、難易度だけが高く、必要性、面白さが低かった、『シャドーイング』については、新年度、行なわないこととした。また、難易度の高かった、自由英作文、ワークブック、および自由記述欄のコメントを、SP20に反映させた。
(a) Necessity
 1年時・英語Ⅱの授業内で行なった主な活動16種類のうち、生徒にとってもっとも必要性が高いと感じられたものは、板書のまとめだった(4.9/5.0)。以下、高い必要性が示された順に、レッスン終了時の単語テスト(4.7)、予習でわからなかったところの質問を受け付ける時間(4.6)、文の区切りごとに意味を確認していく活動(4.6)となっている。
 一方で、もっとも必要性が低いとされたのは、教師によるモデルリーディング(3.4/5.0)、以下、必要性が低かった順に、シャドーイング(3.9)、音読活動(4.0)、穴埋めプリントによる音読活動(4.0)となっている。
(b) Difficulty
 難易度が高かったのは、自由英作文(4.4)、以下、ワークブック(4.4)、暗唱テスト(4.0)、シャドーイング(4.0)、穴埋め音読(4.0)となっている。
 難易度が最も低かったものは、先生のモデルリーディング(2.2)であった。以下、低い順に、質問を受け付ける時間(2.9)、音読活動(3.0)、単語の復習活動(3.1)となっている。
(c) Interest
 面白さが最も高かったのは、クリス・クロスによる単語のレヴュー活動(3.7)だった。以下、同形式による新出語の意味確認(3.5)、ペアによる音読活動(3.2)、板書によるまとめ(3.1)となっている。
 面白さが最も低かったのは、教師によるモデルリーディング(2.3)だった。以下、ワークブック(2.4)、構文暗唱テスト(2.5)、単語テスト(2.5)、自由英作文(2.7)となっている。
(2) Results of Pre-SP20 (Pre treatment)
 2種類の予備調査から抽出された、学習上の問題点20の内、最も深刻だったのは、課題の多さ(4.2)だった。以下、授業の復習をしない(4.1)、試験の見直しをしない(3.9)、計画を実行できない(3.9)となっている。
 最も深刻度が低かったのは、授業の予習をしない(2.2)だった。以下、訳し方がわからない(2.4)、授業の内容が理解できない(2.6)、授業に集中できない(2.7)となっている。
(3) Results of Revised SITS (Midway check)
 予備調査(SITS)から引き続き行なった活動については、ほぼ同様の結果を示している。予備調査で、生徒から必要性や難易度が低いと判断された活動を省いたため、著しく数値が低い活動はなくなっている。
(4) Results of Post-SP20 (Post treatment)
 4月に実施した事前調査(Pre-SP20)と、7月に実施した事後調査(Post-SP20)の結果を比較すると、最も改善が見られた項目は、授業に集中できない(-1.0)だった。以下、勉強する気がしない(-0.9)、授業内容が理解できない、予習しない、復習しない、音読練習しない(それぞれ-0.7)だった。
 逆に、悪化した項目は、試験の見直しをしない(+0.1)、自由英作文のやり方がわからない(+0.1)だった。以下、あまり改善が見られなかったのは、リスニングのやり方がわからない(-0.1)、ワークに出ている長文問題の解き方がわからない(-0.2)となった。
(5) 因子分析
生徒が英語Ⅱの学習上、どのような問題を抱えているのかを探る目的で、2006年4月および7月に、XX高校2年生3クラス120名を対象に、質問紙調査を行った。質問紙では、2006年3月に行った質問紙調査の結果に基づいて抽出された20項目について、5段階評定で回答を求めた。

質問項目
1) やる気がしない。
2) 勉強のやり方がわからない。
3) 勉強しても結果がでない。
4) 計画を実行できない。計画が長続きしない。
5) 授業の内容が理解できない。
6) 授業に集中できない。
7) 本文の訳のやり方がわからない。
8) リスニングのやり方がわからない。
9) 自由英作文のやり方がわからない。
10) 単語の読み方がわからない。
11) 小テストの勉強はしない。
12) 授業の予習はしない。
13) 授業の復習はしない。
14) 音読練習はしない。
15) 英単語が覚えられない。
16) ワークブックに出ている長文問題のやり方がわからない。
17) ワークブックに出ている和訳問題のやり方がわからない。
18) 定期考査の勉強方法がわからない。
19) 課題が多すぎて、定期考査の準備ができない。
20) 定期考査の見直しはしない。

5段階評定
1) あてはまらない
2) どちらかというとあてはまらない
3) どちらともいえない
4) どちらかというとあてはまる
5) あてはまる

4月と7月の質問紙調査の回答結果をそれぞれ別々に標準得点化し、それら4月と7月の標準得点を1つにして最尤法による因子分析を行った。カイザーガットマン基準(第1因子から、第4因子までの固有値はそれぞれ5.15、2.34、1.46、1.42、1.03)およびスクリープロット基準により、3因子を採用した。これらの因子に対してプロマックス回転を行った、その結果、各因子に対する因子負荷量は、以下のようになった。

第1因子 第2因子 第3因子
1) .53 .12 -.07
2) .00 .92 -.10
3) -.24 .64 .06
4) .42 .26 -.07
5) .30 .29 .12
6) .36 .07 .02
7) .17 .22 .17
8) -.12 -.14 .51
9) -.03 .25 .43
10) -.02 .10 .34
11) .58 -.02 -.17
12) .66 -.02 -.35
13) .50 -.17 .12
14) .47 -.09 .19
15) .10 .26 .31
16) .03 .12 .70
17) .08 .04 .76
18) .01 .65 .09
19) .42 .24 .03
20) .61 -.25 .21

因子負荷量が少なくとも.40を超えており、他の因子の因子負荷量との間に.15以上の差があるものを採用することにした。
第1因子は、以下の8項目の因子負荷量が高く、全体として生徒が意欲を持つことができない印象を与えることから、「学習意欲」因子と名づけた。

1) やる気がしない。
4) 計画を実行できない。計画が長続きしない。
11) 小テストの勉強はしない。
12) 授業の予習はしない。
13) 授業の復習はしない。
14) 音読練習はしない。
19) 課題が多すぎて、定期考査の準備ができない。
20) 定期考査の見直しはしない。

第2因子は、以下の3項目の因子負荷量が高く、全体として生徒がやり方がわかっていない印象を与えることから、「学習方法」因子と名づけた。

2) 勉強のやり方がわからない。
3) 勉強しても結果がでない。
18) 定期考査の勉強方法がわからない。

第3因子は、以下の4項目の因子負荷量が高く、全体として生徒が問題を感じている教材関するものである印象を与えることから、「学習内容」因子と名づけた。

8) リスニングのやり方がわからない。
9) 自由英作文のやり方がわからない。
16) ワークブックに出ている長文問題のやり方がわからない。
17) ワークブックに出ている和訳問題のやり方がわからない。

なお、以下の5項目については、残余項目としていずれの因子にも採用しなかった。

5) 授業の内容が理解できない。
6) 授業に集中できない。
7) 本文の訳のやり方がわからない。
10) 単語の読み方がわからない。
15) 英単語が覚えられない。

生徒が英語Ⅱを学習時に抱く問題点として抽出された、「学習意欲」(項目1、4、11、12、13、14、19、20の合計得点平均)と「学習方法」(項目2、3、18の合計得点平均)と「学習内容」(項目8、9、16、17の合計得点平均)を尺度として使用することにして、信頼性を確かめるためにクロンバックのアルファ係数を求めたところ、以下のようになった。

学習意欲 学習方法 学習内容
4月全体 0.778 0.710 0.733
4月男子 0.838 0.699 0.688
4月女子 0.662 0.692 0.782
7月全体 0.709 0.788 0.719
7月男子 0.770 0.762 0.714
7月女子 0.571 0.817 0.728

「学習意欲」因子の4月女子(α=.66)および7月女子(α=.57)という結果を除けば、全体としてある程度の信頼性が確保されている(α=.7以上)ことが明らかになった。
生徒が英語Ⅱを学習時に抱く問題点として抽出された、「学習意欲」と「学習方法」と「学習内容」を尺度として用いて、4月と7月の結果に違いがあるかどうかを検証することにした。
「学習意欲」と「学習方法」と「学習内容」に抽出された項目の、4月および7月の平均と標準偏差を求めたところ、以下のようになった。

平均 標準偏差
学習意欲4月 3.48 .80
学習意欲7月 2.93 .71
学習方法4月 3.12 1.03
学習方法7月 2.71 .96
学習内容4月 3.50 .94
学習内容7月 3.36 .92

4月と7月の結果に対して対応のあるt検定をおこなった結果、「学習意欲」について、4月と7月の平均の間に有意な違いが明らかになった(片側検定:t=7.75, df=99, P<.05)。また、「学習方法」についても、4月と7月の平均の間に有意な違いが明らかになった(片側検定:t=4.75, df=103, P<.05)。また、「学習内容」についても、4月と7月の平均の間に有意な違いが明らかとなった(片側検定:t=1.716, df=102, P<.05)。
生徒が英語Ⅱを学習時に抱く問題点として抽出された、「学習意欲」と「学習方法」と「学習内容」を尺度として用いて、4月と7月のそれぞれの結果に、男女の間に違いがあるかどうかを検証した。
t検定の結果、男女の平均の間に有意な違いが明らかとなったのは、4月「学習方法」(片側検定:t=-2.75, df=110, P<.05)と、4月「学習内容」(片側検定:t=-2.57, df=110, P<.05)の2項目のみであった。
つまり、生徒が英語Ⅱを学習時に抱く問題点のうち、「学習方法」と「学習内容」について、女子は男子よりも、4月時点で、より深刻に問題意識を持っていたと言える。

5−2 質的調査の結果

(1) Video taped sessions
 合計12回の授業録画を行なった。
(2) Reflective journal entries
 録画授業を中心に15回の授業日誌をつけた。授業内での各活動の時間配分、授業後の印象、録画授業を観察してのコメントなどを記録した。
(3) Class observation by a colleague
 授業の流れおよび活動の目的は、客観的に見ても、ほぼ伝わっていることがわかった。授業の流れについての改善点をいくつか指摘していただいた。
 逆に、流れを重視しすぎて、英文の内容を軽視しているのではないか、という指摘をいただいた。

6 結果分析

6−1 量的調査の結果分析

(1) SITS, Revised SITS
 授業内で行なっている活動について、生徒の印象を調査した2回のSITSSからは、教師側の予想とは異なる、興味深い結果が見られた。
(a) Necessity
 まず、板書や和訳といった活動を生徒は強く必要としている事実である。両調査でも、いずれも高い必要性を示した。一般的には否定されることの多い訳読式授業を、生徒が必要としていることの表れであると思う。
 一方で、授業の流れの中で、当然のように行なわれることが多い、新しい内容をまず聞いてみる活動が、予備調査で不要とされた背景には、予習習慣が確立しているという事実があることが考えられる。つまり、生徒は、予習段階で、英文をしっかり読み込んできているため、授業内で、本文を聞く作業は、本来の目的を果たしていない、と思われる。同じ理由で、予習で分からなかった質問を受け付けたり、疑問点を解消する板書や和訳に、高い必要性を感じていると考えられる。
 教師の目線だけで授業内容を決めるのではなく、生徒の実態に即した授業内容の必要性を痛感した。
(b) Difficulty
 生徒から高い難易度が示された活動には2つのタイプがあった。1つは、自由英作文とワークブックという、入試問題演習である。もともと、合否の判定をつけるために、難易度を高めに設定してあるため、難しく感じるのも当然だろう。
 もう1つのタイプは、例文暗唱テスト、シャドーイング、穴埋め音読という、文脈を読んだり、文章を生成する活動であった。このようなCreative output活動は、知識だけに依存しない英語力を養成する観点からも大切だと思う。
 一方で、単語の復習や音読活動など、単なる知識のアウトプットは、あまり生徒の負担とはなっていないようである。
 難易度の高い活動と低い活動を、授業内でバランスよく配列することが大切だと感じた。
(c) Interest
 生徒が面白いと感じる活動と、インターアクションとは密接に関連していることがわかった。クリス・クロスによるゲーム形式の活動、ペアによる音読活動などに、生徒は面白さを感じている。
 一方で、ワークブック演習や小テスト、自由英作文のように、インターアクションが伴わない活動については、全般的に、面白いとは感じないようである。
 また、必要性と面白さとは、反比例する傾向にあるように思われる。多くの生徒が面白いと感じる活動への、必要度は、あまり高くない。インターアクションを排除すれば、インプット効率がよいため、必要度は上がるが、面白さが失われ、インテイク率が落ちる。逆にインターアクションを増やせば、生徒の関心を刺激して、インテイクを高めることができるが、インプット効率が落ちる。
 いくら必要であっても、面白くない活動ばかりでは、生徒の集中力が続かない。面白さの観点から、授業内での活動を配列することも大切だと感じた。
(2) Pre-SP20
 20個の問題点のうち、最も深刻な問題として取り上げられた、課題の多さ(4.2/5.0)の背景にあるのは、本校が県下有数の進学校であり、それだけ、生徒への要求水準が高いということがある。アンケートの結果から、生徒は日々の予習におわれ、自主課題や復習まで、手が回っていないことがうかがえる。そこで、そのようは自主課題や、復習をできるだけ授業の中に組み入れたり、また生徒が計画的に学習に取り組めるように、学習計画表を配布するなどして、これらの問題への解消を図った。
(3) Post-SP20
 授業に集中できない(-1.0)、勉強する気がしない(-0.9)、授業内容が理解できない(-0.7)など、生徒の心理面に関する項目で大幅な改善が見られたのは、SITSの結果による授業内での活動を精選したり、それらの配列を工夫したこと、また授業日誌による振り返りなど、総合的な対策の成果だと考えられる。
 また、予習しない(-0.7)、復習しない(-0.7)、音読練習しない(-0.7)などで、改善が見られたのは、単語や和訳確認で、予習した内容を利用するインターアクションを増やしたこと、また音読や復習活動を授業内に取り入れたことによると考えられる。
 逆に、問題点として、指摘されながら、有効な対策が打てなかった、試験の見直しをしない(+0.1)、また、授業内で十分時間を確保することができなかった、自由英作文のやり方がわからない(+0.1)、リスニングのやり方がわからない(-0.1)、については、当然、現状維持または悪化という結果になっている。ワークに出ている長文問題の解き方がわからない(-0.2)については、週1回のペースで、さまざまな方式を試みたが、生徒からの良好な反応を引き出すことはできなかった。これらは今後の課題となる。
(4) 因子分析
生徒が英語Ⅱを学習時に抱く問題点のうち、「学習意欲」「学習方法」「学習内容」のいずれも4月から7月にかけて、改善が見られたが、「学習内容」についての改善は、他の2因子に比べて小さいものになった。
「学習内容」について十分な改善が見られなかった理由としては、これらの内容を授業内で扱えなかった、または扱う時間が不十分だったことが考えられる。

6−2 質的調査の結果分析

(1) Video taped sessions
 授業を継続的にビデオ録画することそのものが、大きな効果を上げることを実感した。生徒の目線から見た授業を視覚的に見つめることで、目線、話す速さ、板書、机間巡視など、基本的な動作の再点検ができた。
(2) Reflective journal entries
 授業日誌を通じて、各活動の狙いと時間配分、活動の選択について、より深く考えることができた。また、継続的に記録を続けることで、各授業を視覚的に比較することが可能になり、同じパターンの授業を単調に繰り返すことをさけるようになった。たとえば、音読活動だけでも、34種類を試すことができた(http://d.hatena.ne.jp/JCD00620/20060428)。
(3) Class observation by a colleague
 同僚の先生による客観的な観察により、自分が意図したことが理解されている部分と、思ったとおりに伝わってないことがあることがわかった。たとえば、冗長さ、単調さを避けるために、工夫しているつもりの授業の流れについて、教材内容を掘り下げていないのではないか、という指摘をいただいた。教材内容は、今回の研究の対象外だったため、あまり工夫がなされていなかった。
http://d.hatena.ne.jp/JCD00620/20060621)。

6−3 制限事項

 本研究については、因果関係、一般化、効率化という3つの観点から問題点があげられる。
 本研究でのさまざまな取り組みが、生徒の学習上の問題点の改善および学習意欲の向上に相関関係を持っていることは示されている。しかし、どの取り組みがどの改善につながっているか、直接的な因果関係は証明されていない。また、他の授業や塾、家庭学習など、他の要因の影響も否定できない。因果関係を証明するためには、より統制された環境での実践を行なう必要がある。
 一般化という観点からも、いくつかの問題が指摘できる。まず、研究対象が、研究者が英語Ⅱの授業を行なっている生徒であったことから、他の教科の、他の生徒に対しても同様の結果が得られるのか、証明がなされていない。同様の手法が応用できるのか、さらなる検証が必要だろう。また、被験者自身が授業の観察者でもあることから、第三者の観察・評価による検証が必要だろう。
 効率化の点では、まず、研究対象が広すぎたことが上げられる。生徒が英語Ⅱを学習する上で抱く20の問題点を対象としたが、これらは、より精選することが可能だったと思う。調査対象が広すぎたため、それぞれの検証を十分に行なえたとは言えない。

6−4 今後の研究に向けて

 本研究をさらに発展させるには、1種類の手法が考えられる。まず、Burnsが指摘するように、共同研究を実施することである。共同研究者の存在により、研究をより客観的に実施することができる。同時に対象者を広げることで、研究の波及効果を高めることができる。さらに、研究者間で結果を共有化することにより労力の効率化を図ることもできる。
 第2に研究手順の効率化である。本研究では、2種類の予備調査、事前・事後調査、中間調査の合計5回の調査を実施したが、中間調査を省略することは可能だったと思う。
第3、英語Ⅱ以外の授業への応用である。ライティングやオーラルコミュニケーションの授業で、本研究の手法を取り入れてみたい。