因子分析の結果

質問紙調査の概要

生徒が英語Ⅱの学習上、どのような問題を抱えているのかを探る目的で、2006年4月および7月に、H高校2年生3クラス120名を対象に、質問紙調査を行った。質問紙では、2006年3月に行った質問紙調査の結果に基づいて抽出された20項目について、5段階評定で回答を求めた。

質問項目
1) やる気がしない。
2) 勉強のやり方がわからない。
3) 勉強しても結果がでない。
4) 計画を実行できない。計画が長続きしない。
5) 授業の内容が理解できない。
6) 授業に集中できない。
7) 本文の訳のやり方がわからない。
8) リスニングのやり方がわからない。
9) 自由英作文のやり方がわからない。
10) 単語の読み方がわからない。
11) 小テストの勉強はしない。
12) 授業の予習はしない。
13) 授業の復習はしない。
14) 音読練習はしない。
15) 英単語が覚えられない。
16) ワークブックに出ている長文問題のやり方がわからない。
17) ワークブックに出ている和訳問題のやり方がわからない。
18) 定期考査の勉強方法がわからない。
19) 課題が多すぎて、定期考査の準備ができない。
20) 定期考査の見直しはしない。

5段階評定
1) あてはまらない
2) どちらかというとあてはまらない
3) どちらともいえない
4) どちらかというとあてはまる
5) あてはまる

因子分析の手順

得られたデータに対して、4月と7月の質問紙調査の結果を標準化処理した上で、最尤法による因子分析を行った。カイザーガットマン基準およびスクリープロット基準により、3因子を採用した。これらの因子に対してプロマックス回転を行った、その結果、各因子に対する因子負荷量は、以下のようになった。

第1因子 第2因子 第3因子
1) .53 .12 -.07
2) .00 .92 -.10
3) -.24 .64 .06
4) .42 .26 -.07
5) .30 .29 .12
6) .36 .07 .02
7) .17 .22 .17
8) -.12 -.14 .51
9) -.03 .25 .43
10) -.02 .10 .34
11) .58 -.02 -.17
12) .66 -.02 -.35
13) .50 -.17 .12
14) .47 -.09 .19
15) .10 .26 .31
16) .03 .12 .70
17) .08 .04 .76
18) .01 .65 .09
19) .42 .24 .03
20) .61 -.25 .21

因子負荷量が少なくとも.40を超えており、他の因子の因子負荷量との間に.15以上の差があるものを採用することにした。

第1因子「学習意欲」

第1因子は、以下の8項目の因子負荷量が高く、全体として生徒が意欲を持つことができない印象を与えることから、「学習意欲」因子と名づけた。

1) やる気がしない。
4) 計画を実行できない。計画が長続きしない。
11) 小テストの勉強はしない。
12) 授業の予習はしない。
13) 授業の復習はしない。
14) 音読練習はしない。
19) 課題が多すぎて、定期考査の準備ができない。
20) 定期考査の見直しはしない。

第2因子「学習方法」

第2因子は、以下の3項目の因子負荷量が高く、全体として生徒がやり方がわかっていない印象を与えることから、「学習方法」因子と名づけた。

2) 勉強のやり方がわからない。
3) 勉強しても結果がでない。
18) 定期考査の勉強方法がわからない。

第3因子「学習内容」

第3因子は、以下の4項目の因子負荷量が高く、全体として生徒が問題を感じている教材関するものである印象を与えることから、「学習内容」因子と名づけた。

8) リスニングのやり方がわからない。
9) 自由英作文のやり方がわからない。
16) ワークブックに出ている長文問題のやり方がわからない。
17) ワークブックに出ている和訳問題のやり方がわからない。

残余因子

なお、以下の5項目については、残余項目としていずれの因子にも採用しなかった。

5) 授業の内容が理解できない。
6) 授業に集中できない。
7) 本文の訳のやり方がわからない。
10) 単語の読み方がわからない。
15) 英単語が覚えられない。

各因子の信頼度分析

生徒が英語Ⅱを学習時に抱く問題点として抽出された、「学習意欲」(項目1、4、11、12、13、14、19、20の合計得点平均)と「学習方法」(項目2、3、18の合計得点平均)と「学習内容」(項目8、9、16、17の合計得点平均)を尺度として使用することにして、信頼性を確かめるためにクロンバックのアルファ係数を求めたところ、以下のようになった。

学習意欲 学習方法 学習内容
4月全体 0.778 0.710 0.733
4月男子 0.838 0.699 0.688
4月女子 0.662 0.692 0.782
7月全体 0.709 0.788 0.719
7月男子 0.770 0.762 0.714
7月女子 0.571 0.817 0.728

「学習意欲」因子の4月女子(α=.66)および7月女子(α=.57)という結果を除けば、全体としてある程度の信頼性が確保されている(α=.7以上)ことが明らかになった。

4月および7月質問紙調査の結果比較分析

生徒が英語Ⅱを学習時に抱く問題点として抽出された、「学習意欲」と「学習方法」と「学習内容」を尺度として用いて、4月と7月の結果に違いがあるかどうかを検証することにした。
「学習意欲」と「学習方法」と「学習内容」に抽出された項目の、4月および7月の平均と標準偏差を求めたところ、以下のようになった。

平均 標準偏差
学習意欲4月 3.48 .80
学習意欲7月 2.93 .71
学習方法4月 3.12 1.03
学習方法7月 2.71 .96
学習内容4月 3.50 .94
学習内容7月 3.36 .92

4月と7月の結果に対して対応のあるt検定をおこなった結果、「学習意欲」について、4月と7月の平均の間に有意な違いが明らかになった(片側検定:t=7.75, df=99, P<.05)。また、「学習方法」についても、4月と7月の平均の間に有意な違いが明らかになった(片側検定:t=4.75, df=103, P<.05)。また、「学習内容」についても、4月と7月の平均の間に有意な違いが明らかとなった(片側検定:t=1.716, df=102, P<.05)。

つまり、生徒が英語Ⅱを学習時に抱く問題点のうち、「学習意欲」「学習方法」「学習内容」のいずれも4月から7月にかけて、改善が見られたが、「学習内容」についての改善は、他の2因子に比べて小さいものになった。

「学習内容」について十分な改善が見られなかった理由としては、これらの内容を授業内で扱えなかった、または扱う時間が不十分だったことが考えられる。

質問紙調査結果の男女間比較分析

生徒が英語Ⅱを学習時に抱く問題点として抽出された、「学習意欲」と「学習方法」と「学習内容」を尺度として用いて、4月と7月のそれぞれの結果に、男女の間に違いがあるかどうかを検証した。

t検定の結果、男女の平均の間に有意な違いが明らかとなったのは、4月「学習方法」(両側検定:t=-2.75, df=110, P<.05)と、4月「学習内容」(片側検定:t=-2.57, df=110, P<.05)の2項目のみであった。

つまり、生徒が英語Ⅱを学習時に抱く問題点のうち、「学習方法」と「学習内容」について、女子は男子よりも、4月時点で、より深刻に問題意識を持っていたと言える。

参考文献

佐藤信(1968)推計学のすすめ−決定と計画の科学− 講談社ブルーバックス
三浦省五監修 (2004)『英語教師のための教育データ分析入門』 大修館書店